ラーメン屋

ラーメン屋        

賑やかな店内で俺一人が笑っていない
それは濁ったみぞれのせいか 
逆撫でる寒波のせいか
それともマフラーの毛玉のせいか
このままカウンターテーブルと同化してゆくような気がする
突然その灰色は密着した肘の方からやってきて
肩へ這い上がり、両頬から俺の顔面を侵食する
脳みそが灰色のチーズになると、そこから一匹の鼠が生まれて
チュウチュウ言って脳を、腹わたをかじりとり、そうして俺の中に住む
俺をまるごと食い尽すと巣がなくなって鼠はようやく凍え死ぬ

やりきれなくてふと横を向くと
となりの女がメガネを外した
さらに続けて指輪を外した
それでも足りず首輪も外した
やれやれどこまで外すのだろう
ヒトのタガまで外すなよ 今の俺では惚れかねない
外し女に運ばれたのは ラーメン大盛り ライス キムチ 餃子もつけたかアホンダラ
俺はなんだかみじめになった

女は食べる…女は蓄える…女は命を延長する

誰かに食われて死ねるなら、こいつがいいと思ったが
その時女は鼠になってやっぱり凍え死ぬのだろうか
それならいっそ俺も女も鼠になって食われることも食うこともよして
この寒さを耐えるためだけに重なり合って
俺は女の重さで息絶えて、女は寂しさで女に戻れ



作:知伊田月夫

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